2022年7月、日本の元首相安倍晋三が奈良の市街地の路上での演説中に暗殺さ れました。手製の銃で2発撃たれた後、犯人は制止されました。安倍晋三氏は警備をつけていたにもかかわらず、犯人の山上徹也(41歳)は信じられないほど安倍元首相に接近していたことが報道されました。
なぜ警備はこれほどまでに失敗したのか、また今後同様の脅威を食い止めるにはどうすれば良いのか?
まず重要なことは今回のテロについて何が起こったのか、すべての事実を知っているわけではない、ということです。しかし報道をもとにセキュリティがどこで失敗したのか、どうすればこの種の脅威を防ぐことができたのかについていくつかの仮説を立てることができます。
どの国にも要人警護や警備のための訓練に関する文化があり、日本も同様です。安倍晋三氏は首相時代にもあまりセキュリティに熱心でなかったことで知られています。セキュリティ対策に賛成し、この変化に対応した一方で警護やセキュリティに対するスタンスはチームとの関わり方を変えたかもしれません。
安倍晋三氏は既に首相ではなくなったため、今回の演説では彼の警備チームは大幅に縮小されていました。これは引退した政治家や国家元首が権力の座から退くと狙われにくくなると考えられているため、よく見られることです。
また開催場所にも問題がありました。繁華街と思われる場所の道路の真ん中で行われたのです。これはあらゆる攻撃に対してオープンであることを意味しています。例えば屋上で銃を持った犯人がいたり、複数の人が複数の方向から迫ってきて、セキュリティがクライアントを守るために奔走することもあり得ます。
このような場所では警備担当者はクライアントの周囲に三つのリングを作ることができないのです。もしこのイベントが施設内で行われたのであればそれぞれのリングにセキュリティ対策が施されていたかもしれません。例えば施設の外周に手荷物検査や監視カメラなどを設置することができます。
会場で集会を開いた場合、安倍晋三氏の背中は壁で守られ、一方向だけの群衆に語りかけることになったはずです。また安倍晋三氏の周囲には警備を強化するような意味のある陣形はなかったため、より万全の体制で臨むことができたかもしれません。つまり安倍晋三氏は必要以上に無防備だったのです。
また日本の警護官たちは銃があまり一般的に使用されていないため、銃による攻撃に関する訓練を受けていない可能性もあります。むしろナイフの方が多いかもしれません。日本では銃を入手することすら難しいため、犯人は銃を自作したのでしょう。
安倍晋三氏はどうすれば守られたのか
このように舞台や路上で警護を行う場合、その範囲内にカウンター・サーベイランスを設定する必要があります。ではカウンター・サーベイランスとは何でしょうか?本来は護衛官であることを誰にも知られないようにするためのものです。カウンター・サーベイランスのエージェントとして、彼らの仕事は歩き回ることによって群衆の雰囲気をつかむことであり、不審な行動をしたり、怒ったり動揺したりしている人を監視することです。そうすることで群衆の中にいる不審者を見つけることができます。
警備員の配置からして安倍晋三氏の周囲を360度守ることはできてなかったようで、肝心のカウンター・サーベイランスは活かされませんでした。
銃声がしたとき警備員は音に慣れておらず、この種の攻撃に対処する訓練も受けていなかったので驚いたのかもしれません。そのため犯人に素早く効果的に対応するための重要な数秒間を失ってしまったかもしれません。このような警備の怠慢はトンネル・ビジョンによって引き起こされます。日本では銃が一般的でないからといって警備員が一般的な脅威や攻撃に対して十分な訓練を受けていないとは限りません。
あらゆる種類の攻撃を考慮し、それに備える必要があるのです。攻撃は銃、爆弾、ナイフ、あるいは手による格闘などあらゆる方向からやってくる可能性があります。警護エージェントはこのような攻撃を防ぐ方法と、攻撃された場合の対処方法を理解していなければなりません。そのためには常に周辺を警戒し、本能を研ぎ澄ましておく必要があります。
結局のところ集会が行われる環境をコントロールする必要があったということです。路上であっても、安倍晋三氏の背中や脇を守るために偽の壁を設置することは可能だったはずです。そして工作員は三つのリングを制御し、安倍晋三氏の全側面を注意深く配置すべきでした。
安倍晋三氏が倒れたとき、その場から避難するのに時間がかかったように見えました。心肺蘇生や応急処置を行っていたと思われますが一刻も早くその場から病院へ搬送することが最優先であったでしょう。最高の要人警護には医療的要素が含まれています。万が一の医療事故に備え、民間の救急サービス会社に依頼した方がよかったかもしれません。そうすれば専門的な医療サポートを即座に提供することができたでしょう。
このようにあらゆる脅威を想定し、被害を未然に防ぐための総合的な警護対策が必要なのです。